月組公演『出島小宇宙戦争』を観ました①

 

 気付けば今年初めての更新です。ひたすら楽しみにし続けていた鳳月杏さんの東上主演公演、月組公演デジタル・マジカル・ミュージカル『出島小宇宙戦争』を観てきました。

・ビジュアル最強
・良曲祭り
・キャラ特濃
・フィナーレ色香のビッグバン
ちなつさんがかっこいい
ちなつさんがとてもとてもかっこいい
ちなつさんがかっこよすぎてどうしたらいいのかわからない

 つまりは最高!!!!!!!
 贔屓が主演ってだけではちゃめちゃ幸せなのにこんなに楽しくていいんですか……?語りたいこと山ほどあるけど、今回の記事では本作の構成について考えてみたいと思います。
ちなつさんについては次回死ぬほど褒める。贔屓マジでマジで最高。この世の宝。宇宙一天才

 

 

 

 

 さて、この作品において何が特徴的なのか尋ねられたら、わたしはまず舞台全体を占める不思議な幻想感を挙げます。
 デジマの舞台ってオペラ使うのもったいないくらい全ての場面が引きの一枚絵として綺麗ですよね。pixiv1000users入り神絵師!お衣装もセットも照明も絶妙な調和を奏でていてどんな席からでも楽しめる。あの美的感覚物凄い強み
 ただ、ゆめゆめしい視覚効果だけであの幻想感が醸し出されているわけではないと考えています。
 では、一体何が理由なのか?ここで注目したいのが時間軸の構成です。


視点1 「現在」
 演目発表当初、突拍子も無いあらすじで噂をさらった本作ですが、蓋を開けてみれば物語はわたしたち観客のよく知る江戸の町から始まります
 「てやんでい!」「べらぼうめぇ!」フィクションにおける典型的な江戸っ子たちが火事と喧嘩は江戸の華というようにたわいもない言い争いをし、これまた典型的すぎる町娘の装いをしたさち花さんにひと笑い。
 そこへアイヌ風の装いをしたリンゾウ、隈取りを施した老中タダアキラとその家臣ヌイノスケが現れる。徐々に当たり前の風景に違和感が滲み出していく。極め付けに警告色のキープアウトから望遠鏡型のロケットランチャーぶっ放して銀髪の主人公カゲヤスが現れるわけです。
 挙げ句の果てにたどり着いた出島では当然のような顔をしておかしな赤髪エルフ耳のシーボルトと美少女メイドかド派手に登場する。
 情報が大渋滞!!!!!!これが主人公たちのいる「現在」なのだから、もうわけがわからない
 とはいえ、「エドミ/デジミ」「エドハル/デジハル」「エドゾウ/デジゾウ」といった同じ立ち位置の大衆を江戸と出島両方へ置くことでその異常性に対比が効いて、何故だかすとんと理解してしまえる憎さ。最初と最後の江戸の町がめちゃくちゃ効いてますよね。
 グラデーションをつけてどんどん特殊な世界観へ引き込んでいく力の強さを感じます。観客がどういう順番で何を見ればこの情報量に着いていけるのかかなり意識されているように思いました。

 

視点2 「未来」
 観客の視点といえば、この作品には江戸時代よりもずっとずっと未来の「令和」に生きるわたしたちだからこそ面白い要素がこれでもか!というくらい散りばめられています。数々の宝塚作品のオマージュ、人口に膾炙した文学的フレーズ、現代の私たちだからこそわかるメタ的要素が詰め込まれている。TLのオタクたちがやれ東方だスタトレだセラムンだ劇団新感線だと大暴れしっぱなしです!タカヤ~~~~オマージュの答え合わせしてくれ~~~~~~~!!!!!
 しかも、そのオマージュが舞台上で生きている人たちからはあくまで自然な発話になっているのが良い。真剣に言っているからこそ面白い。
 谷先生の台詞って込められた意味が多層的すぎて言語的な響きだけではかなりスノッブに感じる場面もあると思うんです。「月が綺麗ですね」なんて狙って言われたらゾッとしません?それが演者の力で粋に変わっている。この台詞が自然に言えるのは財産。
 今は亡き蜷川幸雄シェイクスピアも日常の台詞もどちらも言える役者を育てたいと言っていたの思い出した。谷先生の狙いは、とてもクレバーだし、その要求を叶えられる演者もすごい。

 

視点3 「過去」
 一番驚いたのは「過去」の演出方法です。要所要所で差し込まれてくる「過去」の幻想。幼き日のカゲヤスとリンゾウ、そしてキーパーソンとなる師匠タダタカ。この語りが普通じゃない。

①月のうさぎの異化効果
 「過去」は月からやってくる!とでもいうようにこの語りの中で最も重要な役割を果たすのはかわいいかわいいうさぎちゃんたち。ほんとめっちゃくちゃかわいい。ゆめかわ。砂糖菓子の擬人化か?口に入れたいかわいさ。ついつい萌豚の顔しちまう。
 でも、かわいいだけじゃないんです。彼女たちの登場は「過去」の幻想が現れる合図になっている。というか、うさぎなしでも回想シーンって普通に成り立つじゃないですか。なのにあえて多用している。その狙いは違和感を作り出すことにあると思います。あの存在と身振りで意図的に明らかな違和感を作り出している姿は異化効果と呼んでもいい。

 異化効果とはドイツの劇作家ブレヒト1920年代に発案した演劇理論で、当たり前と思われる事柄を、見慣れない未知のものに変える趣向をいいます。うさぎちゃんの存在こそがありがちな風景を見慣れぬ未知の存在に変え、この幻想世界を作り出す源となっているのではないでしょうか?

 

②響き合うコロスと宇宙のきらめき
 また、うさぎちゃんたちを始めとした月の都の住人たちはコロスの役割を果たしているとも感じました。
 コロスとは古代ギリシア劇における合唱隊のことで観客に対して、観賞の助けとなる劇の背景や要約を伝え、劇のテーマについて注釈し、観客がどう劇に反応するのが理想的かを教える役割があります。
 コロスは2幕冒頭「夢」における使い方が特に顕著。月の都の住人たちが歌と踊りで物語を導いていく姿はうっとりするほどロマンティックですが、よくよく動きを見るとストーリーに深く絡んでいる。
 個人的に特に好きなのは牢獄へ幽閉されたカゲヤスが限られた夜空から天体観測をしていた場面を月の都の住人と共に台詞なしで表現するところ。星々のきらめきに満ちたライティングの元、娘役の指先が惑星の軌道を描き、伏し目がちなカゲヤスの眼差しがそれを追いかける。彼にとっての小宇宙がなんとも幻想的にうつくしく表現されている
 どんな状況であっても未来を追い求める。人間は夢なく生きていけない。降り注ぐ流星を背に罪を踏みしめてでも進んでいきたいと確固たる意志で生を肯定する姿に鳥肌が立った
 人生の大部分を幽閉されて過ごしたであろうカゲヤスって孤独だったと思うんです。なのに、誰のことも恨まず、むしろ自分を責め、あそこまでピュアなのも切ないくらい。(美女のイマジナリーフレンド生み出すとかいうやっばい精神状況に陥っても不思議ではない……)タダタカ先生が初めて出会った救いだったのがよくよく伝わる回想をこんなゆめゆめしい形で見せてもらえて本当に良かった。

 


 こうして過去、現在、未来の視点が特異な構成で混ざり合うことで不思議な幻想感が生まれている
 この感覚ってなんだか夜空を見上げる感覚に似ていませんか?今、わたしたちが見上げている星々のきらめきも実は過去の光であるように時間というのはそこまで確かなものではないのかもしれません。意識していないだけで日常にロマンが隠れている。見慣れた風景に意図的な違和感を生み出すことで改めて気付かされた。観劇後、当たり前の毎日が少し素敵に思える
 そんな新鮮な発見のある舞台はアカデミックへの深いリスペクトの視線も含めて、すごくすごくロマンチックでとても知的な営みを見せていただけたと思います。

 好きなもの全部入れたい!!!というパッションが尺を圧迫した結果、目新しさに飛びつく大衆、実学との揺れ動き、真実とは?国と国民の関係性などなど……散りばめられたテーマ性を深めきれなかったのも確かかと思います。タカヤもっと書きたいこといっぱいあったよね;;ってオタク共感してしまう。
 ただ、それを差し引いてもやりたいことがたくさんあるって気持ちいいと思わせてくれた。作り手の大好きが満ち満ちている。前へ前へ進んでいく力を感じた。それって小劇場での挑戦として大正解じゃないですか?観劇ってめちゃくちゃ楽しいな!と初心に返ることができました。舞台への喜びに満ち溢れていることが嬉しくて仕方ありません。
 この少し間違えば破綻してもおかしくないバランスを実力でねじ伏せられる演者がこれだけ揃ってるのも奇跡!お芝居も歌もダンスも最下に至るまで1つの作品をしっかりとまとめ上げてきた。圧倒的僥倖。
 今回の記事は取り上げませんでしたがあの圧倒的なフィナーレまでついてくるんですよ????最高の極み。観られてとてもしあわせでした。ありがとうございます。また、すぐに池袋での公演が始まるのでどう見方が変わるかすごくたのしみです。 

 語りたいことは本当に山ほどあるので、次回は個々の登場人物に関する感想を取り上げてみたいと思います。では、また!