花組公演『CASANOVA』を観ました②

 

 こんばんは。今日は拗らせオタク大歓喜、噂のコンデュルメル夫妻の感想をお送りします。観る前はカサノヴァに魅入られた夫人とカサノヴァを憎む閣下という仮面夫婦ドロドロ系かと思ってたんですが、蓋開けたら二人の関係性が好きすぎて頭おかしくなってしまった……!無駄に長いです。

 

悪巧み聖堂
 コンデュルメル夫妻が揃った瞬間の美!!!!!!画面が強い。冷静に考えてれいちゃんとちなつさんが夫婦って本当やばいな。目が潰れる。ここの会話で見えた人物像すごく面白かったです。コンデュルメル閣下はコメディタッチが強いものの野心の塊。特権階級として伝統や慣習を重んじ、秩序を乱す者を強く憎んでいる。コンデュルメル夫人はそんな異端審問官の妻でありながら黒魔術に傾倒しており、浮気相手であるカサノヴァが欲しいと夫に強請る。同時に妻側から示される夫への歪んだ愛情表現がめちゃくちゃ艶っぽくてドキドキしました。夫人が閣下を触る手付きがやべぇ。直視できない。
 前のシーンで閣下がベアトリーチェに言った「貴族は結婚していても恋愛を愉しむことができる」という言葉通り、共に恋人がいることを理解している複雑な関係。この二人が権力側の象徴として社会的秩序に強く縛られている提示とも取れます。本作は西洋の宗教観がすごくナチュラルに入ってますよね。立場、振る舞い、生き方等々が神との契約のもとに規定されている。
 また、コンデュルメル夫妻の共犯者感がかなり強くてマクベス夫妻をバチバチに感じました。夫人の 「あなたのためならなんだってする」という言葉だって、今まで彼女が夫のために本当になんでもしてきたんだろうという説得力があった。成りあがってきた陰に内助の功がありそう。コンデュルメル夫人、夫が殺した王の血で手を真っ赤に染めてくれそうだもん。閣下も今まで自分のために妻がしてきたことを分かってるから監獄へカサノヴァを探しに行くんじゃないかな。普通あんな簡単に言うこと聞かないですよね。コンデュルメル閣下自体はマクベスの成功版というか、小心に狂わされず成り上がって王殺しの一歩手前まで来た人という印象でした。

 

実験室
 そんなこんなでカサノヴァを逃がしてしまった夫が妻を訪ねてくるシーン。夫人はそこで彼の愛人であるゾルチの命が自分の手のうちであることを楽しそうに見せつけます。互いに欲する人間を贈り物として交換することで夫婦の愛を証明し合うという言葉に一瞬、人質を使ってでもカサノヴァが欲しいってことなのかと思った。
 でも、閣下がゾルチを見捨てずカサノヴァを探す選択をしたときの夫人がすっごい悲しそうなんですよね。え……もしかして……別にカサノヴァ興味ない……?夫にゾルチと別れて欲しかっただけじゃない?カサノヴァは他の剥製と同じく寂しさを埋める道具に過ぎず、夫人の真の執着は夫に向いている。自分をどこまで受け入れてくれるか探るためにわざと困らせる試し行動に見えた。だから、夫の選択にゾルチへの愛を感じて無駄に傷ついてしまった。あまりに不器用すぎるでしょ。かわいい無理。
 まぁ、夫人はそう思ってるかもしれないけど、実際コンデュルメル閣下はゾルチに執着してるか怪しくないですか?だって、冒頭以外にゾルチへ興味を持っているシーンがほぼないので。むしろ忘れているくらいでは。カサノヴァを捕まえる、つまりは妻の願いを叶える方に力が注がれていたように見えました。
 そして、とにかくカサノヴァを憎みまくってる。秩序をつかさどる閣下から見れば、カサノヴァの言う自由は無秩序に過ぎず、大変に腹が立つとはいえ影すら憎いって何事よ。しかし、真面目に閣下の気持ちになるといくら夫婦関係が冷めきってるとはいえ、妻が夫である自分を脅してまで他の男を欲しがるのマジで無理じゃない?異端審問のときに堕落させられた「妻」のフレーズも出てますし、かつてのカサノヴァと夫人のアバンチュールに思うところがあったのでは。だから、カサノヴァへの憎しみが増しているんだと個人的には思ってます。男の嫉妬はみっともないから外に出せないんですよね。お前も不器用か。ただ、閣下は社会的自己実現の欲求が人生の主軸にあるので夫人のように恋が上手く行かないからって狂いはしない。バランスが取れている。だからこそ、擦れ違った夫婦関係を修復しようとはしないんですよね。自分しか肯定してくれる存在のいない嫁の気持ちに寄り添えない。

 

銀橋擦れ違いソング
 はい!来た!!!!!夫人、やっぱり夫めちゃくちゃ好きなんじゃん!!!!!!夫との幸せな未来を望んでいるだけなんだって表情だけではっきり分かってしまう。ストレートな言葉ではないのにその気持ちがビシビシ伝わるのやばくないですか?そこに寄り添うハーモニーの切ない美しさよ。このシーンちょうちょうちょう好き。ちなつさんのお芝居冴えに冴えてる。(れいちゃんが観れてないのでれいちゃんのオタクは閣下がどんな顔してるか教えてください)恋に狂いたかったわけじゃないのに夫が好きすぎてどうしようもなく狂っていくコンデュルメル夫人エモMAX。すれ違いディスコミュニケーション最高!
 『マクベス』では王を殺し、王座に就いたマクベスが内面/外面の重圧に耐えきれず暴政に狂っていきました。コンデュルメル夫人は貴族の妻として求められる常識、振る舞いという外圧と夫を独占したい、愛されたいという内面の狭間で苦しみ、狂って行った。理性では理解していても感情がついてこない。本当は自分だけを選んでほしい。けれど、立場上それをストレートに夫に伝えることはできません。素直になることすら許されない。そして身体の奥底で渦巻いた嫉妬に灼かれていった。傷付く度に表情が艶っぽくてたまらない。

 剥製へのこだわりも変わりゆくことへの恐怖が影響しているんでしょうか。過去、夫との愛に満ち足りていた時間があったことが想起させられる。だからこそ、失うのが怖くて綺麗なままで時間を止めてしまいたい。泥臭くてすごく好き。制御できない感情に狂わされていくのめちゃくちゃ恋だな、恋!!!!!
 コンデュルメル夫妻はマクベス/マクベス夫人の共犯的関係性、狂気への振れ方、オベーロン/タイターニアの仲違いが綺麗に調和していて本当に最高。黒蜥蜴の物悲しさもあるし、マジで文学的存在。大好き。

 

仮面舞踏会
 ここだけ夫人のドレスの系統がいつもと違うのは夫好みのゾルチに寄せたデザインを着てるんですかね。一幕終わりではいつもの路線でドレスアップしてるので本当はあの格好で行こうとしたけど、夫と踊りたくて途中で変えたとか裏話ある気がする……。じゃないとあそこで無駄にお着替えする意味あります?ファンへのサービス?踊ってるときに執拗に自分の身体に触れさせてアピールしているのもやばい。萌えの塊すぎてもうなんも言えん。永遠に観てたい。かわいい。閣下の部下たちが苦労してそうなとこもかわいいです。上司のお世話って大変だね。

 

結婚さえしていなければ
 ここで全てが帰結する。閣下の吐き捨てた台詞聞いた瞬間、衝撃で殴られたみたいになっちゃった。閣下の最大の望みは権力、つまりヴェネツィア総督になること。そのためにはベアトリーチェと結婚するのが一番手っ取り早い。ただ彼は既婚者である。カトリックでは結婚は神の前で誓った契約だから離婚ができない。だからコンスタンティーノを手駒に王殺しを企むしかない。目の前にある欲して止まない人生最大のチャンスをみすみすと逃すことになったからあの言葉が出た。
 その意図を察した夫人の心底驚いた声。思わず漏れてしまったというような小さな響き。けれど、何よりも重い。ここまではいくら関係が拗れていても心のどこかで自分が夫から必要とされていると思っていたと思うんですよ。けれど、夫にとって婚姻は愛による繋がりではなく、今や輝かしい未来を阻む忌々しい足枷となっていると知ってしまった。誰よりも近くで見ていたから彼の望むことが分かってしまった。妻として唯一よすがとしていたものが一気に崩壊する。ここからの表情の動きめちゃくちゃ好き。静かに心が死んでいくのが分かって痛い。歌っている姿が親に捨てられたボロボロの子どもみたいに見えて耐えられない。涙こそ流れていないけれど心で泣いてる。泣けないのが逆に可哀想で観てるこっちが泣きそう。
 しかも、夫に見捨てられたことに絶望して死のうとするわけじゃないのがやばい。彼女は夫の望みを叶えようとして人形になる薬を飲んだのではないでしょうか。自分がいなくなれば神の御前で交わした結婚の契約が解消される。妻のいなくなった夫はベアトリーチェと結婚でき、総督になるという夢を叶えることができる。夫のために最期の献身を尽くそうとした。ただ、それでも夫が好きだからせめて人形になって見つめていたい、そばにいさせてってことでしょ。愛してるから憎い。憎いから愛してる。くそくそくそくそ重たいけど、めちゃくちゃかわいいですよね?????「誰か」じゃなくて「あなた」に愛されたいというのがありありと分かる。
 幸福の軸が異なる二人が番になることで生まれた擦れ違い。一緒に幸せになりたかっただけ、本当はずっと。この構図『アデル、ブルーは熱い色』でも観た。コンデュルメル夫妻ってパルムドールのラブストーリーじゃん。生田先生~~~~ありがとうございます~~~~~~!!!!!!

 

ラストバックハグ
 夫よ頼む、嫁抱きかかえたときにスリットから覗く扇情的なおみ足を隠してくれ。話はそれからだ(モンペ) 最初はここの回収もう少し丁寧にして欲しいなと思ってたんですけど、バレンタインの日に完全に頭やられてしまいました。夫妻の左手薬指に光る結婚指輪。その存在だけで見え方がこんなに変わるとは思わなかった。コンデュルメル閣下が人形となった夫人を後ろから抱きすくめ、体温を確かめるように力なく落ちた左手を取った瞬間、二人の指輪の輝きが重なった今までずっと離れ離れだった夫婦の心が通い合ったように見えたんです。エモすぎてびゃんびゃん泣いたわ。
 蘇った後の夫人の表情の流れもあまりに好きすぎる。目の演技がとてつもなく上手い。総督から沙汰を言い渡されて後ろにふらつくコンデュルメル閣下の背に手を当ててしっかりと支えるところ素晴らしく良いよね。あそこからラストまでのセリフのない表情の芝居が本当に好き。最近、しもべちゃんたちが夫婦の後ろで喜んでてかわいいってやっと気付きました。ご主人様よかったねって顔してんの天使か?ラストは夫婦の今後が気になりすぎるという思いに頭沸騰しながら終えることになります。そういう余白をオタクに与えちゃダメ。狂うから。

 

 ディスコミュニケーション、愛情のボタンのかけ違い、不器用で一途な愛の証明。そんなの嫌いなオタクいない。けど、真面目な話、コンデュルメル夫妻が抱えているのは他人と親密な関係を築く上で普遍的な問題だからついつい感情移入して観てしまう。その繊細な感情を表現する演者の力も強い。気持ちがよくわかるからこそ、どうか幸せになって欲しいと願ってしまう。きっと大千秋楽の幕が下りるまで毎回二人に引き込まれて観てしまうと思います。


 こんな風に宗教上の理由でコンデュルメル夫人を軸に作品を観ていたら、そもそもは夫人と似たような立場なのに全く異なる結末を迎えたキャラクターがいることに気付きました。最終回となる第三弾では今までとは少し視点を変えて、またコンデュルメル夫人に関する感想をお送りしようと思います。では、また次回。

 

追伸:劇団へ 生田茶ください(尺の関係で消えたエピ全部知りたいです!!!)