2018-11-19

 朝が来た。平成30年11月19日、宝塚歌劇団月組から二人の娘役の名前が消えていた。正直、実感が湧かない。昨日の記憶を残しておきたいのにどんな言葉も相応しくないような複雑な気持ちで一日を過ごした。

 憧花ゆりのさん。すーさん。月組組長。
聡明としか言いようがない素晴らしい挨拶だった。強い責任感と深い愛情に満ちた言葉の数々、成熟した精神の宿ったスピーチの一方、その煌めく眼差しに宝塚を愛する少女の姿が見えた気がした。客席を見つめる視線はたまらなく愛しげで。次期組長となる、るうさんの瞳から滴り落ちる涙もまた尊さを増していた。

 愛希れいかさん。ちゃぴ。月組トップ娘役。
6年半という長きに渡ってトップ娘役を勤め上げてきたちゃぴちゃんは私のようにのんびり宝塚を観ていた人間にも特別な思いを抱かせる人だったように思う。今までたくさん泣いたからこそ今日は泣きたくなかったと泣き笑う彼女が愛しかった。幾度となく立ちふさがった困難な壁を超え、その笑顔で大きな感動を何度も何度も届けてきてくれたことに感謝している。

 一等苛烈に焼き付いたのはサヨナラショーのラストを飾った「ドリームガールズ」希望に溢れた歌詞を歌い出したちゃぴちゃんを娘役たち、続いて男役たちが取り巻いていく。"We're your Dreamgirls." いつだって宝塚はたまらなくうつくしい夢をわたしたちに見せてくれると思わせてくれた。

 男役を含め"Girls"と呼びかけられ、夢の実現を歌い踊る様に、自らを肯定するうつくしさの主体性を見た。今更ながら生徒一人一人にとって宝塚の舞台は夢そのものなのだと思い知ったのだ。彼女たちの汗と涙と努力の結晶が輝くからこそ宝塚という夢は続いていく。そして、それはわたしがちゃぴちゃんに感じていた強いヒロイン性そのものだった。目の前の現実と向き合い、努力を惜しまず大切な人たちと支えあいながら自分の人生を切り開いていく。時に傷付きながらも絶対に前へ進んでいく。清く、正しく、美しい女の子たちのたくましい夢物語。並大抵ではない努力で得てきた圧倒的な輝きが彼女たち自身を肯定していた。誰にも奪うことはできない。全力でやり切った人達はこんなにもうつくしい。歌詞と呼応するように感動が押し寄せてきた。

 宝塚には夢がある。愛がある。希望がある。続く、というのは当たり前ではない。未来はたくさんの愛の連鎖によって生まれてきた。愛しい昨日までの先に今日があるのだ。伝統と革新を体現する素晴らしい娘役二人の卒業が改めてそう教えてくれた。

 すーさん、ちゃぴちゃん本当にお疲れ様でした。たくさんの感動をありがとうございます。どうかお二人の未来が明るくのびやかでありますように。

ありったけの愛と希望を込めて。