限界ヅカオタが選ぶ!宝塚でカバーしたいK-POP曲10選!

 

君が「またカムバしようぜ!」と言ったから5月22日はカムバ記念日


こんばんは!はづきです!
残念ながら三連休の予定がなくなってしまったので、久しぶりにブログを書いてみます。


何故、突然K-POP
というのも宝塚では、中村暁先生という演出家によるショーで度々、K-POPの楽曲が使用されています。(INFINITE「Be Mine」、INFINITE「back」、2PM「I'll be back」など、中村先生はいわゆるK-POPの第二世代が好きな模様)

そして、そのK-POPの楽曲が使われた場面に出演した月組男役トップスター月城かなとさんが共演した下級生に「またカムバしようぜ!」というメッセージを送っていたことが最近発覚しました。そんな「バンドやろうぜ!」みたいなことあるんか?おもしれー。

しかし、なにはともあれカムバしてほしい!なんなら贔屓でカムバしてほしい!
そのような欲望のもと、宝塚でやりたいK-POPを10曲選んでみました。けーぽクソクソにわかのヅカオタが選んだので、とにかくやりたいという強い気持ちだけ感じとっていただければ幸いです!



↓始まります

 


SEVENTEEN - HOME;RUN

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ねぇ、めちゃくちゃ宝塚じゃない?セブチの群舞、宝塚と親和性高くない?
上下からどんどん下級生出てくるの見えるもん。しかも、3:34からとか完全にトップスター出てくるやん?!
特にこちらのステージはミュージカル仕立てのような演出になっているので、宝塚大劇場の舞台を立体的に使った演出が映えるのではないでしょうか?とにかく盆!回せ!回せ!

 

②Jackson Wang - Blow

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娘役を……はべらかしたい……!!!!!!娘役をはべらかしたい!!!!!!!!!!!!
男役が娘役をはべらかす姿はいつの時代も最高。シンプルに曲がかっこいいのでやりたいのですが、加えて男役がドレスシャツにコルセット組み合わせてるの、絶対やりたくないですか?オタクの夢叶えたろかスペシャルすぎる。
ちなみにこちらは宙組男役トップスター真風涼帆さん(今度ハイローでコブラちゃんを演じる愛称はゆりかちゃん)にやっていただきたいです。何卒よろしくお願いいたします。

 

BTS - Dionysus

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はい!みんな大好きなやつですよ!!!
宝塚にはカクテルにワイン、ウイスキーのショーだってあるんだから、お酒の神様の曲もやったらええと思うねんな。どうですか、大介先生?こちらはいつでも飲め!飲め!されたいですよ。是非またグラスのグッズ作っていただいて構いませんのよ!デコらせていただきますわよ!(ヅカオタのグッズをデコる習性について気になった人はTwitterで「#ヅカオタペンラ選手権」と検索してみよう!)
ラストの椅子のパフォーマンスがとてもとてもかっこいいので、是非やりたいですね。足を組んだ男役がズラッと並ぶ光景。絶対興奮でオペラ曇る。開演前に今日こそは全体を見ると誓うものの絶対に贔屓しか見れんやつだわ。

 

BTS - RUN

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このジャケットプレイがやりたい2022Takarazuka
ジャケットプレイが嫌いなオタクはおらん。このカシオミニを賭けてもいい。そして、見えました!銀橋でズラッと並んでフィニッシュするのが!後生ですから、本舞台から照明バチバチに当ててください。わたしたちの目は潰れても構いません。


⑤Trouble Maker

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芹香斗亜オッパ潤花オンニでやります!!!!!!!(名指し)
ヘルシーセクシー全振りの潤花ちゃんがこれやったら最高じゃないですか?ラストには宝塚式キスシーンを絶対入れてくれよな!
あっ、待って、でも、男役の女装とかも良い……?トップ男役と二番手男役の女装でトラブルメーカーやる……?どう?死人が出る……?それでも是非とも男役の女装からしか得られない栄養素摂取したいです!!!!!!!!!よろしくお願いいたします!!!!!!!!

 

⑥宇宙少女 - Pantomime

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電飾ビカビカのやつは総じて宝塚なんよ(ガバガバ判定)
娘役さんがメインの場面作れるなら、こういうのが見たくないですか?とにかくお衣装がゆめゆめしくてかわいい〜。うーん、有村先生ですね。かわいいだけでなく少し切なさが薫るような物語仕立てなのも良い。月組ストップモーションが光るぞ。

 

⑦MAMAMOO - Decalcomanie

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\宝塚でなんとかママムはやれんのか?/


今日一デカい声出た。それくらい宝塚とママムは親和性高いと思うんだよね。生き様がかっこいい女の子たちサイコー。ちなみにムンヴョルさんは星組配属‼️(ガバガバ組分け帽子)

こちら、セブチがカバーしてるのもめちゃ宝塚でした。シンプルな黒スーツでやるの解釈一致。これだよ、これ。

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⑧MAMAMOO - Egotistic

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原曲が大好きなのはもちろんなんですが、こちらのAOAによるカバーの演出がめちゃくちゃいい!今すぐやりたい!!!!スーツを着た女の子たち、この世の宝。この越境性を愛しとる。

 

⑨EXO - Love Shot

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ド定番ですいません。やっぱり定番は味しなくなるくらい噛み締めたい。余談ですが自分が小学校のときにラブショ見てたら、卒業文集の将来の夢の欄にカイくんって書いてたと思う。アジアの初恋、伊達じゃない。
ちなみにこの赤スーツは水美舞斗さんに託したいと思います。マイティ〜バッキバキに踊ってくれ〜。


⑩EXO - The Eve

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こちらもEXOの定番曲ですが、これを中国の女性アイドルサバイバル番組「青春有你2」でカバーしたのがめちゃくちゃよかったですね。
動画をご覧になって出演者に男役さんいる?と思った方へ、そちらは刘雨昕さんと仰います。絶対雪組凰稀かなめさんに似ている。ちなみにわたしの推しは许佳琪(キキ)ちゃん。あまりに美、、、、、(いつぞやマシュマロでキキちゃんの存在を教えてくれたオタクありがとうKISS)
いや、どう考えてもせっかく宝塚でやるなら、ヨジャ(女性アイドル)とナムジャ(男性アイドル)のいいとこどりしたいじゃないですか。その答えの一つがここにありました。大変ありがとうございました。贔屓に撃たれて天寿を全うしたい。

 


さてさて、独断と偏見で選んでみましたがいかがだったでしょうか?
一応、宝塚の舞台映えしそうな曲を選んでみたつもりですが、「このミーハー野郎!あの曲がないやないかー!」などありましたら、マシュマロにおすすめ放り込んでやってください!


ではでは。次回は無事に宝塚大劇場でお会いできますように。

陳情令にハマったヅカオタが中国ミュージカルサバイバル番組「#爱乐之都」第3話を観ました

皆様、こんばんは。GWをいかがお過ごしでしょうか?
わたしはやばい男と男が見られるらしい韓国ドラマ『怪物』を見ようと思い、アマプラに入りました。

 

けど、その前に爱乐之都3話ですわよ!
(↓公式チャンネルから無料で見られます)

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▶3話のラインナップはこちら!
①『蝶』より「新娘+诗句」
鞠红川&喻越越

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②『ロックオペラ モーツァルト』より「死んでしまえば」
刘乙萱&冯镝霏

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③『ディア・エヴァン・ハンセン』より「You will be found」
曹杨&李钦&严中杰&陈恬

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④『ウィキッド』より「あなたを忘れない
李炜铃&朱芾

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(以下、英語字幕で視聴した感想ですがわたしの語学力的に分かってないこともあると思うので、間違いなどありましたらご教示いただきたいです)

 

あのね、喻越越さんの声が良すぎるとか、またカイロ取り忘れてる人おるんのほんまおもろいとか、宝塚版のロクモってお衣装全然違うんやとか、ウィキッド最高のシスターフッドとかとかとか色々あるんですけど……


とにかくディア・エヴァン・ハンセン組がめちゃくちゃよかった!!!!!!!!


たった一場面なのに見てておいおい泣いちゃった。「どうすればこの4人のメンバーでこの作品のテーマを一番良く伝えられるか?」という真摯な問いを感じた。ただ脚本を再現しているわけではなく、原作に込められたテーマを描くために、今、この四人で演じる意味をちゃんと持たせていた。

発表の前に阿云嘎さんから説明があったように、『ディア・エヴァン・ハンセン』はSNSの普及した現代社会の若者を題材にしています。

この物語の主人公は、友達もなく、家族にも心を開けずにいるティーンエイジャーであるエヴァン・ハンセン。彼は社交不安障害のセラピーの一環として自分に向けての手紙を書いているんですね。“Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)”から始まる、誰にも見られたくない「心の声」が書かれたその手紙を、ある日、同級生のコナーに奪われてしまいます。

そして、後日、そのコナーが自ら命を絶ったという予想だにしないことを知らされる。また、運の悪いことにその非常にナイーヴな内容の手紙を見つけたコナーの両親は、息子とエヴァンが親友だと思い込んでしまいます。息子を亡くした彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは、思わず話を合わせてしまう。

思いやりから生まれたその嘘はどんどん大きくなっていき、ついにエヴァンは自分自身の孤独感とコナーとの友情について感動的なスピーチを行うことになります(ちなみに社交不安障害患者が強い不安を感じる場面として最も多いのが「見知らぬ人や少し顔見知りの人との会話」と「人前での発言・スピーチ」だそうです)

そんな、彼の抱える不安の象徴ともいえるスピーチの場面で、その不安から解き放たれるように歌われるのが今回の曲、"You Will Be Found"。瞬時に膨大な情報が溢れる現代社会のように、たくさんの人が行き交う群集の場面から始まる舞台には、誰もいない状態で感じる孤独と違った辛さがありました。こんなにもたくさんの人がいるのに、それでも一人だと感じること。彼が抱えているのは、むしろ、たくさんの人がいるからこそ感じる孤独なんだっていうのがはっきりと伝わってきた。

また、"You Will Be Found"はもともとソロ曲として作られていますが、4人グループで歌うにあたり、エヴァンの感じている孤独や社会への不安を、キャップ、ヘッドホン、メガネ、スカーフといった、4人の演者が身に着ける持ち物それぞれをアイコンにして振り分けています。
この演出が抜群に効いている!自分の存在を社会や他者から遮断したり、隠したり、異なる姿に見せられるグッズは、彼の社会に対する不安や恐怖、怯えを端的に象徴することができます。アイデアとしてはインサイド・ヘッドとか脳内ポイズンベリーに似てるって言えばいいのかな。とにかくすごくよくできたアダプテーション!!!

そんなエヴァンのスピーチの映像はSNSを通じて急速に世界中に拡散されていく。(発表では中国の様々な地域からメッセージが寄せられる演出になっていました)共感、感謝の言葉が信じられない速さで大量に押し寄せる。

その瞬間、先ほどまで孤独を表していた演出が逆転する。大衆の中で孤独を感じていた彼/彼女自身がこの世界の何処かに存在する誰かであり、あなたであり、わたしであるという感覚に変わっていく。鳥肌が立った。

もちろん、ここで語られる物語は全部「嘘」で、それ自体は褒められたことではありません。けれど、裏返せば、こんなにも誰かと「簡単に」「いつでも」繋がれる社会の中で、多くの人がそれでも孤独であり、救いを求めているということではないでしょうか。だからこそ、エヴァンの(自分自身の悩みに重ねた)切実な言葉が届いてしまった。

"You will be found、あなたの居場所が見つけられる、誰かが必ずそばにいる、あなたは一人じゃない"

正直、このメッセージってともすればめちゃくちゃ薄っぺらい綺麗事に感じられると思うんです。特にストーリー全体から離れて、一場面だけで見せるってなったら難しい。

それを物凄く真摯に伝えたのが演者の力ですよね。現代社会に非常にフィットした作品をフレッシュな最年少チームで演じるのがすごくすごく良かった。常時接続のZ世代、常に繋がっていることが当たり前の若者たちならではの孤独。4人がすごくよいチームになっていたからこそ、表現することができた。演者本人と役が曖昧になるくらい重なって、舞台の上で生きる姿を見せてくれた。

そして、曲が一番盛り上がったタイミングで、彼/彼女たちの社会への恐怖、孤独の象徴であるグッズを床に投げ捨てる。泣き笑いながらそれぞれの場所へ歩き出す。
もうもうもう!このカタルシスといったら!!!!悔しいくらい良い!!!!!!

「別に完璧でなくていい、この世界に自分が存在する価値がある」って心から信じさせてくれた。歌唱力だけではない、人の心を動かすものがある。これを見た人に明日生きていてもいいって思わせる。今、ここにしかない、素晴らしい発表を見せてもらいました。これが舞台を観る喜びよ……!観られてすごくしあわせでした。ありがとうございます。

 

てか、李钦くんって青你3出身なのか〜!かわいいねえ!改めて若手にとってこの番組ってすごく良い経験になるなあと思いました。毎日10時間稽古することより、一回舞台に立つことが大切ってロシアの名門バレエの先生もインタビューで言ってたし(最近見たものにすぐ影響を受けるオタク)


そして、次からはいよいよ第2ステージ!同じ役を演じるバトルは4Aの人から演目を選べるそうで、つまりは自分の得意な音域、声質、個性に合った曲を選べるってシステムなのね。あと対戦相手も。

審査員も変わるのかな?作曲家の先生?がちょこちょこ完全に孫見てる顔しててもえてたのにいないぽいの寂しいけど、次回も楽しみです!

陳情令にハマったヅカオタが中国ミュージカルサバイバル番組「#爱乐之都」第2話を観ました

 
無事に月組大千秋楽が終わり、ほっとしながらの更新です。
このような状態下で一度も止まることなく全公演完走できて本当によかった。生徒の皆さんに心から感謝しております。

というわけで爱乐之都2話ですわよ!
(↓公式チャンネルから無料で見られます)
 
 
▶2話のラインナップはこちら!
①『マンマ・ミーア!』より「ダンシング・クイーン」
丁臻滢&王芯芯&申霓
 
②『ロミオ&ジュリエット』より「エメ」
汪卓成&张会芳
 
③『マーダー・バラッド』より「承诺+逃不过欲望+爱的抉择」
蒋倩如&施哲明&胡迪
 
④『ノートルダムの鐘』より「美しい人」
王哲&黄冠菘&南枫
 
(以下、英語字幕で視聴した感想ですがわたしの語学力的に分かってないこともあると思うので、間違いなどありましたらご教示いただきたいです)
 
 
1.印象的なグループ
今回、特に印象的だったのはマンマミーアの女性陣。ミュージカル界における女優の立ち位置と作品による女性のエンパワメントについてすごく考えさせられた。
 
まず、このグループに合ってる演目なんですよね!歌はもちろん、身体表現にも優れた3人でとっても見ごたえがありました。本当に楽しいステージングで見ていてわくわくした。女は最高!

ていうか、王芯芯さん……完全に星組OGなんよ……柚希礼音さんと十碧れいやさんのニュアンスを感じる。もちろんメロりました。
 
しかも、なんと早着替えがある!!!!!!
オタクは早着替えが大好き!!!王芯芯さんのお衣装にはマントまで!!!!!ボーナスポイント!!!!!!
 
しかし、控室みんなノリノリでウェーブしてる中、微動だにしない叶麒圣さんおもしれー男。控室の様子を楽しむの、これ完全にテニスのベンチ見てるときの気持ちじゃない…?あと、出演者に売れっ子を揃えすぎていて、みんな同じ作品に出てるのもおもろいです。
 
歌唱発表後のインタビューもすごくよかったですね。参加者から語られるこの番組への出演理由や今の自分の置かれた状況がとても興味深い。
 
まず、王芯芯さん。彼女がこの番組に参加した理由として、自信を持ちたいということを挙げていました。こんな素晴らしい発表ができるのに自信ないの?!と驚いてしまうくらいなのですが、どうやら5歳からやっていたダンスで膝を故障して、ミュージカルに転向したそう。
けれど、色々な人から自分の個性がミュージカルに合わないという評価を受けて自信をなくしていったと語っていました。故障を経て、違うジャンルで活躍を目指そうとするだけでもすごいと思うけど、確かに本人としてはなかなか自信を持てる状況ではないのかも。ていうか周りの人が悪くない?才能は褒めて伸ばせ!
 
そして、続く丁臻滢さん。中国人で唯一ウェストエンドの舞台に立ったミュージカル女優さん!代表作はライオンキング。もちろんヒロイン経験も豊富で演じる役の振り幅が大きく、それに合わせて歌声の表現も多彩と評されていました。
ただ、最近は出演が少ないようで、その理由として、年齢や出産が挙げられていました。若く美しいヒロインが定番のミュージカル界において、30歳を超えた女優の役付きは悪くなると共に新しい世代もどんどん出てきます。そんな中で歳を重ね、子どもを産んだ自分は「母親」としてカテゴライズされ、自分自身を見てもらえなくなっているようだと。
 
国は違えど、どちらも理解に容易い状況に胸が締め付けられるようでしたが、そんな二人に対する審査員のコメントがとてつもなく良かった。
王芯芯さんに対しては「80歳まで舞台に立てる。焦らないで。たくさんチャンスがあるからまずは自分自身を愛することを学んで」とLove myselfのメッセージを送り、丁臻滢さんには「美しいという形容詞は(歳を重ねた)わたしたちのアイデンティティを否定するものではありません」と伝える。
めっっっちゃくちゃかっこいい。わたしはわたしである。ただそれだけで素晴らしいんだと言い切ってくれる先人がいること。メンターとしてこれ以上の適任はないと思わせる説得力。YES!年齢より野心!手首に彫りたい名言だ。
そして、そのコメントの後には同じく審査員の一人である作曲家に向かって「結婚や出産だけでなく、女性がより大きな理想を持った作品を描いてください」と言っていたのもよかったですね。ちなみにその作曲家の先生は、3組目の蒋倩如さん(中国ミュージカルの黎明期から諦めず舞台に挑み続けてきた経験豊富な女優さん)のために作品を書きたいと申し出ていました。時代に即した女性を描いた作品になると素敵だな~!
 
物語に登場する女性、とりわけ主役級の女性像が多様になることが、ひいては現実社会を伸びやかにすることに繋がる。フィクションは現実とひとつづきであると感じさせてくれる、未来に対する希望に満ちた発表でした。
 
 
2.おまちかね汪卓成さん登場!
待って、背中にカイロつけたまま本番行った?
出オチよ、こんなもん。テロテロのドレスシャツは確かに寒い。ていうか、汪卓成さん、ロミオなの……?!全然死にそうにないじゃん……!超生命力!
 
ジュリエット役の张会芳さんはどこか野々すみ花さんに似ていますね。めちゃくちゃ可憐だ……!どうやら中国版ロミジュリのオリジナルキャストらしく、かなりのプレッシャーを感じておられる様子。画面越しでもその緊張感が伝わってくるくらいでした。オタクも一緒にはくはくしちゃった。
しかし、25歳でこの仕上がり?!19歳から芸能活動をスタートされたそうで、当時は毎日5時半に起きて自主稽古していたとのこと。たゆまぬ努力の積み重ねを感じますね。
 
また、お稽古の合間に審査員の阿云嗄さんがロミオを演じてるとのことで見学に行く二人。突然始まる楽屋訪問がかわいい。ていうか、本役さんにお話聞きに行くのマジで新人公演すぎるのよ。。。 汪卓成さん、研1で新公主演大変だよね……というお気持ちになってしまった。
ロミオを演じる阿云嗄さんは、1話から参加者全員知っとるのでは?ってくらい顔が広く、発表に対しても的確なアドバイスをしていらっしゃいました。ロミオというお役に対しても大切なのはメランコリーさを目に宿すことって言っててオタク膝打った。わかる、、、ロミオは絶対死にそうであれ、、、、、
 
そんなこんなでいよいよ、発表が始まります。
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絵じゃん!!!!!!!

こんなん即美術館収蔵じゃん!!!!!!!

圧倒的な華!スター性!ゆめゆめしさズバ抜けてる!テカテカの布サイコー!!!!!お顔が良すぎて気が散るくらいお顔が良かったですね。ジュリエットの指先へ愛おしげにくちびる落とす表情、有罪だろ。素直な愛の喜びに溢れている、あまりにうつくしい絵作りすぎて永遠に見ていたい。
そして、ラストのキスで沸き立つ控え室。びっくりして目剥く叶麒圣さんめちゃくちゃお顔がかわいい。オタクも同じく沸き散らかしました。
 
一方で、ロミオの役作りとしてはとても素直というか、緊張の中、精一杯こなしてる感がありました。テレビドラマにどれだけ出演していてもミュージカル経験はゼロだから難しいですよね。やはり審査は甘くなく、共にA評価なしという厳しい結果に。
相手役さんは救済されたけれど、控室に戻って悔しそうにA評価の一番下に自分の写真を貼っていました。素晴らしい俳優たちがA評価をもらえなかったのに、その人たちに申し訳ないと言って流す涙の真摯さよ。次は実力を出し切れますように。ついつい応援したくなるかっこいい姿だ。
 
このペアでは、みんなが知っている物語を演じることの難しさを改めて考えました。1話でオペラ座の怪人ペアを見たときから、課題としてあまりに色んな人が演じている作品を与えられると難しいなと思っていた。観客はどうしても誰かのファントム、誰かのクリスティーヌと比べて観ることになります。そこで、そもそも難易度の高い楽曲を乗りこなしながら、どうやって自分なりの解釈を見せるかを試される。郑棋元・郭耀嵘ペアは圧倒的な歌唱力でねじ伏せていたけれど、ロミジュリペアはそうならなかった。
 
実際、主人公ロミオの物語の読み込みが浅いのが一番の敗因に思えました。歌で表現しきれていない。ロミジュリって、阿云嗄さんが触れていたように愛と平和への普遍的な祈りなんですよね。一種の信仰と呼んでもいい。2022年、今、このときにウクライナでは罪なき人々の命が失われ、スクリーンではWSSが公開されている。そんな中でロミジュリを演じる意味。400年以上、時代を超えて演じられ続ける作品のバックボーンからお役を組み立てていかなきゃいけない。
この発表では実際の舞台と同じくちゃんと「死」が出てきます。なのに、舞台から浮いちゃってた。(審査員の死へのコメントはそういう指摘だと受け止めています)それはロミオが囚われているはずの死の影を表現し切れていないことで、繋がりが切れてしまっているからだと感じました。
審査員からロミオが笑って登場するのは変という指摘を受けていたように、彼は恵まれた環境に生まれたのにどこかで死の影に取り憑かれ、いつも微かに怯えている。そのメランコリー。そして、家同士の確執の中でジュリエットという運命と出会う複雑さ。そこで、ただ恋の喜びに満ち溢れている芝居しちゃうのはやっぱり変なんですよ。恋が成就した幸福感の中に不穏さが混ざっているところが魅力じゃないですか。
 
また、今回のような番組の構成では、一幕終わり、最高潮に盛り上がるところで歌われる要の曲であるエメが、それまでの流れがなくとも一曲だけで爆発する必要がある。他の発表と同じく、そういうのも込みで気持ちを上げて望まないといけない。
 
正直、他の発表がなくて、企画ものとして単体で発表するんだったら全然悪くないと思うんですよ。この面子に混ざると弱いだけで、いいところもたくさんあった。新人公演、研1主演。ここでへこたれるような人は残れないので、これからの伸びしろ期待しております。
 
ただ、審査員だけではなく、控室からも普通にダメ出しされてたのは、ひえーってなっちゃった。こわいよ〜。普段、宝塚の生徒さんたちもこういう愛あるご指導をいただいているんだろうなと思って勝手に胸がぎゅってなっちゃった。
だからこそ、いちファンとして、応援している方に直接感想を届けるなら絶対にプラスになる言葉を紡ぎたい気持ちが増しました。舞台が好きで、何があっても前を向いて努力し続ける方たちだって分かっているから、ダメ出しは先生方や上級生さんたちの担当で、オタクは惜しみない愛を届けていきたいですね。
 
まあ、男は傷付いてる顔が一番かわいいんですが……(最悪の思想)
 
 
3.総評
2話まで見てみて、中国ミュージカルに関わる人たちのとてつもないハングリーさをひしひしと感じることができました。繰り返しになりますが、この番組には中国ミュージカル業界の最前線の超売れっ子たちが出演しています。しかも、彼・彼女たちはすべからく大学で専門的な音楽・演劇教育を受けている。
ただ、前回も書いたように、中国でミュージカルが上演されるようになったのはここ20年ほどのことになります。だから、今、舞台の最前線にいる、長いキャリアを持つ役者ほど、業界全体として仕事がなかった時期を経験しており、たくさんの苦労を重ねてきた。学生当時、同じくミュージカルについて学んでいた同級生たちもほとんど残っていないと口々に言う様子がその厳しさを物語っている。
そんな中でいかに市場が発展してきたか、そこで彼・彼女たちにどんな苦労があったか。その苦労そのものはまだ過去になっておらず、現在進行形で強く共有されている。そして、おそらく中国のミュージカル市場はまだ完全には円熟しきっていない。
だからこそ、成長へのパッションがすごい。アグレッシブなパワー。魂がメラメラと燃えたっている。これから自分たちがもっと盛り上げて、もっともっと発展していこう、自分たちの作るものは絶対に世界に認められるはずだ。そして、いつの日か、中国が、上海が、世界の中心になる。東洋のブロードウェイと呼ばれる未来が絶対にあるはずだ。
そのような、自分だけでない国全体の才能と努力を信じる、ある種の悲願みたいな気持ちを強く強く感じました。なにより、それを最前線にいる役者さんが言葉にするのがとてもかっこよかった。
 
だんだんとペアのバランスや演出との調和なんかの大切さもわかってきたぞ!3話も楽しみです!

陳情令にハマったヅカオタが中国ミュージカルサバイバル番組「爱乐之都」第1話を観ました

 
皆さま、お元気でしょうか?
しれっと二年ぶりの更新です。わたしはといいますと相変わらず元気に贔屓を追いかけております。
ただ、2022年元旦から始まった月組公演もいよいよ終盤という時期に、宝塚大劇場で信頼できるヅカオタから「絶対観て!」と渡された『陳情令』という男と男の最高の執着が見られる中国ブロマンスドラマにドハマリしておりまして……!(すべてのオタクの「答え」がここにあるので宝塚でも早く上演して欲しい)
 
ちなみに推しはこちらの汪卓成さん
えっ、この見た目、この演技力を持って歌まで歌えるの?!大陸、層が厚すぎん?と思ったら演劇の名門大学でミュージカルを学ばれているそうでヅカオタ大興奮。
 
しかも、今、放送中の中国のミュージカル役者のサバイバル番組に出るよ!という情報を得ました。Twitterはなんでも教えてくれる。LOVE。
(↓YouTubeの公式チャンネルから全編無料で見られます)
というか、アイドルのサバ番はよく聞くけど、ミュージカル役者でもあるんですね?!
オタク興味津々!早速初回を観ました。
 
 
1.中国ミュージカル事情
 そもそも中国のミュージカルってご覧になったことありますか?
 わたしは全然なくて!京劇とか中国舞踊のイメージはあったものの何にも予備知識ない。
 でも、こんな番組が放映されるくらいだからさぞや盛り上がっているんだろうなぁと検索してみたら、初めて欧米のミュージカルが上演されたのは2002年の『レ・ミゼラブル』だそう。意外にもここ20年のことなんですね。
 そんな中国のミュージカル文化の中心地は上海。海外の舞台芸術は上海大劇院という劇場で上演されるのが主でしたが、2011年にはミュージカル専用劇場「上海文化広場」がオープン。
 テレビでも2018年にミュージカル舞台公演型のリアリティーショー番組「声入人心」が放送され、人気を博したとのことでかなり盛り上がりを見せているようです。
 また、歴史的に演劇教育を大切にしてきた中国には国立の演劇大学があります。その中でも最高学府と名高いのが上海の上海戯劇学院、北京の中央戯劇学院(汪卓成さんは後者に通われているそうです)。ミュージカルを学べる学科の受験者が急増しているとのことでめちゃくちゃホットなジャンルなのが伝わってきます。てか、普通に舞台芸術が専門的に学べる国立大学あるの羨ましい。
 
 
2.爱乐之都とは?
 さて、爱乐之都の話題に戻ります。こちらの番組、32名のミュージカル役者が出演。サバイバル番組ということで一応勝敗があり、1回戦は参加者全員がペア(もしくはトリオ)となって、様々な楽曲を披露します。
 そこに審査員4名が投票し、全員からA評価をもらえた参加者は2回戦で優遇される方式のよう。ちなみに2回戦以降は課題曲対決、助っ人とのコラボステージなどが予定されているらしい。

(以下、英語字幕で視聴した感想ですがわたしの語学力的に分かってないこともあると思うので、間違いなどありましたらご教示いただきたいです)
 
▶1話の組み合わせ
①ミュージカル『オペラ座の怪人』より「The Phantom of the Opera
郑棋元&郭耀嵘
 
 
②映画『グレイテスト・ショーマン』より「Rewrite the Stars」
赵超凡&李紫婷
 
 
③ロックミュージカル『赤と黒』(原作: フレンチミュージカル『Le Rouge et le Noir』)より「荣耀向我臣服」
叶麒圣&方书剑
 
 
④中国オリジナルミュージカル『在远方』より「兄弟+何处是远方」
刘思维&夏振凯
 
 
⑤ミュージカル『阿波罗尼亚』(原作:韓国ミュージカル『Mia Famiglia』)より「我的家族」
蔡淇&张玮伦&曹牧之
 
 
全員歌が上手い!!!!!!!!!!!!!!!
セットが豪華!!!!!!お金がある!!!!!!(馬鹿の感想)
 
 ミュージカル界の新人発掘みたいな感じなのかな?と思ってたら、のっけからレベル高すぎてオタク泡拭いた。なに?劇団四季のキャストオーディション?
 とにかく出演者全員、実力もキャリアもある。中国ミュージカル界の最前線を走っている方ばかりのようです。正直、これだけのメンバー揃えて、異なるお役で甲乙つけるのはあまり意味がないんじゃないかな。2回戦の課題曲対決から本格的なサバ番ぽくなるんだろうか?
 演目が始まる前に簡単なあらすじ説明があるのは有難いですね!超有名曲から大陸オリジナルまでバランスの良い取り合わせで飽きずに楽しめました。
 
 わたしが特に印象的だったのは3組目、ロックミュージカル赤と黒(Le Rouge et le Noir)。
 とにかく曲がいいー!こういうの大好きー!ロックミュージカルってロクモみたいなやつ?と思ったら、マジでロクモとか1789と同じプロデューサーのフレンチミュージカルとのこと。そりゃ音楽が良いはずだわ。
 
 基本的なあらすじは普通に『赤と黒』なのかな?(ヅカオタ的には柴田先生ですね)地方の貧しい製材屋の息子に生まれながら高い能力を持ち、野心に燃えるジュリアンがパリに出て、階級社会の中で成り上がろうとする姿を描いた作品。
 階級闘争を通して人間を描写するというスタンダールの代表作をもとにしていますが、特徴的なのは、主人公ジュリアン・ソレルの野心の側面が擬人化されていることかと思います。叶麒圣さんが主人公ジュリアンを、方书剑さんが野心に燃える内なるジュリアンを演じていました(後者を勝手に黒ジュリアンって呼びます)二人の役者が同じ人物を演じる。オタクそういうの大好き。
 
 まず、なんといっても叶麒圣さん!中国のプリンスロード?!と見紛う出待ち風景から紹介始まるのおもろい。中国の超人気ミュージカル俳優とのこと。ジュリアンという稀有なる美貌と頭脳ってお役に説得力をもたらしますね。(叶麒圣さんが自分のことイケメンと思ってないっていってたの流石に嘘でしょ)他の出演者さんからファンだって言われているのもかわいかったです。
 もうとにかく視線のお芝居がめちゃくちゃ良い。貧しい生まれの自分を理不尽に蔑む社会を憎む目たまんない。中国語全然分からないのですが、ジュリアンの置かれた背景や感情が歌唱から台詞を話しているかのようにはっきりと伝わって来て、その破壊力が舞台いっぱいに広がっていく。めちゃくちゃ好きでした。
 
 今回の歌唱発表は、町長の子どもたちの家庭教師として雇われていたジュリアンが招待されて屋敷に訪れたにも関わらず、門前払いをくらうところから始まります。扉が開かない=生まれによって社会から締め出されるって描写がこの短い場面でも導入として入ってるの上手い。
 そんな屈辱に震えるジュリアンの前に現れるのが黒ジュリアン。これから立場を逆転してやろうと諭す方书剑さん、めちゃオペラっぽい歌い方するな~と思ってたら幼い頃から声楽を学ばれてたんですね。上原理生くんに似ている。歌も演技も十分上手かったのですが、二人の主導権を握ってリードするお役だと思うので、配役逆の方がやりやすかったかな。叶麒圣さんをリードするって超難しそう。まぁ、そういうお役すら乗りこなすのが役者の実力でもあります。

 世界を跪かせろとばかりに歌い上げる二人のバチバチ感というか、高みに昇っていく雰囲気がわたしは超超好きでした。やってて自然とボルテージが上がっていく曲だろうから、抑えを効かせながら徐々に盛り上げていくコントロール技術が肝要だっていうのも分かる。音楽そのものに強いパワーがある。
 
 あと、審査員の方も仰っていたように海外ミュージカルは外国語を訳す段階でかなり歌いにくくなりますよね。音のハマり方が原曲と異なるので素直に難しい。にも関わらず、二人とも物凄く感情豊かに登場人物の人生を歌い上げていてすごかった。この演目を通しで見てみたいと思わされるペアでした。その後の4組目が演じたのが中国オリジナル演目だったから対比も面白かったな~!
 
 4組目は今回発表があった中ではお芝居の成分が一番多かったように思いました。また、歌唱発表後のインタビューが盛り上がりを見せていましたね。発表に関するコメントに加えて、ミュージカルに入ったきっかけや今までのキャリアなども話してくれるのですが、刘思维さんが自分のことを「non-staff musical actor」と呼んでいる理由と舞台にかける思いがめちゃくちゃ熱かった。
 
 それにしても、中国ミュージカル界ってすごく学歴社会だなぁ。出てくる人達、ことごとく専門教育を受けてる。世界的に見たら普通なのかな?
 例えば、3組目の方书剑さんは2016年に上海音楽学院の音楽・演劇学科に入学。その時点ではまだミュージカルが人口に膾炙していなかったというような話しぶりで、同級生たちもミュージカル業界に片手も残っていないと言っていた。厳しい。
 ちなみに5組目のトリオは蔡淇さんが上海音楽院ミュージカル学科4回生、张玮伦さんが上海戯劇学院ミュージカル学科2021年卒、曹牧之さんは中国伝媒大学(中国の放送・メディア分野における最高レベルの大学だそうです)卒。みんなエリートだ……。
 
 そんな5組目はメンバーのバランスがとても良かったように感じました。それぞれ異なる個性を持っている中でのわちゃわちゃ感というか、背伸びしない良さ。トークコーナーでも天丼しまくりでウケる。しかし、张玮伦さんかわいいね~!!!常に面白くて優勝。ゲラゲラ笑ってしまいました。こういう方って絶対色んなお役ができますよね。
 あと、3組目の審査員講評のときに「美形の役者がそうでない役を演じるのも、容姿に秀でていない役者が美形の役を演じるのもどちらも壁がある。でも、その不可能を可能にするのが演劇なんだ」ってコメントに合わせて、「だから、俺もロミオやりたいんだよね。夢!」って言ってたの馬鹿ほどウケちゃった。めっちゃ観たいよ。
 個人的にはめちゃくちゃスターな役者がそのスター性を消して平凡な人物を演じたり、普通っぽく見える人が舞台の上で豹変するところを見るのが大好きなので、このコメントもすごく納得できました。役の当て方ってほんと奥深いな~!
 
 そんなこんなで第1話終わり!控室でひたすらにこにこ発表に反応する汪卓成さんかわええ。すぐ立ち上がるやん。あのテロテロドレスシャツのお衣装だと演目はフランス物かしら。2話以降も楽しみです!
 
 
【参考記事】

宙組公演『FLYING SAPA-フライング サパ-』を観ました

 

 宙組公演『FLYING SAPA-フライング サパ-』を観てきました。大好きな上田久美子先生の完全新作というだけでなく、様々な思いを抱えた観劇。全神経を尖らせて見させていただいたのですがこの4か月で完全に感想の書き方忘れてしまい、てんやわんやな文章となっております。よろしければお付き合いください。

 

1.ジャンル

 2016年、米国大統領選挙以降、文学史に名高いジョージ・オーウェルの『1984』が再び注目されたのは記憶に新しい。『1984』はSF(サイエンスフィクション、科学的な空想にもとづいたフィクションの総称)の中でもディストピア小説と呼ばれるジャンルである。
 ディストピア小説は科学が発展した空想的な未来におけるユートピア(理想郷)と正反対の要素を持つ破綻した近未来社会を描き、その内容は政治的・社会的な課題を背景とする場合が多い。
 今回、宝塚歌劇団宙組が上演した『FLYING SAPA-フライング サパ-』(以下、サパ)はこのディストピアを描いた作品と言っていいだろう。人類の進化、管理社会、全体主義個人主義の対立、階級社会など、ディストピア小説で見られる様々なテーマが取り上げられている。
 しかも、そこに紛争、エスニシティレイシズムなど、現代社会の数々の課題を内包しつつ、エンタメとして成立させていた。

2.あらすじ

 そもそも、これらのテーマは宝塚においてあまり見慣れないものだ。だが、「上田久美子」という演出家の作品として考えるとそう不思議ではない。『月雲の皇子』での鮮烈な演出家デビュー以来、緻密な脚本と繊細な人物描写で熱狂的な人気を博してきた彼女の前作『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』(以下、BADDY)における問題意識が発展し、サパに繋がっているのがはっきり分かるからだ。

 BADDYのピースフルプラネット“地球”(戦争も犯罪も全ての悪が鎮圧された世界)のごとく、サパは単一国家として戦争も犯罪も起こらない平和がもたらされた、かつて水星と呼ばれた星"ポルンカ"を舞台に展開される。
 サパの世界では太陽の核融合反応が弱まった地球で資源と食料を巡ったパニックと全世界大戦が起こる。そこから逃れるように戦争に勝利した国の一部の上流階級と宇宙で暮らすために必要な技術開発力を持った者、つまりは人類の存続に役に立つ者のみが選ばれ、宇宙船で移住してきたという。
 ポルンカでは地球で凄惨な争いを生み出してきた原因である「違い」を排除するため、地球における様々な言語・民族・文化などが禁止されている。人間には名前の代わりに識別番号が授けられ、単一の言語を用いたユートピア的国家が築かれてきた。
 また、人々は人類が宇宙で生きられるよう開発された「へその緒」と呼ばれる生命維持装置を通して、国民の精神データを政府中枢のデータベースに集約されている。データベースでは悪の衝動を未然にチェックすることができ、人類は完璧な秩序の中で暮らしていた。
 そのような政府による完全なコントロールに不可欠なのは悪の衝動が実行に移る前にその火種を消すことである。筒井康隆『パプリカ』よろしく、兵士と呼ばれる存在が夢を通して人々の意識の中に潜り、危険思想の存在を探す仕事を請け負う。
 その兵士こそが宙組男役トップスター・真風涼帆演じる主人公オバクである。彼そのものがかつて何かしらの危険思想の持ち主であり、科学による治療(矯正)不能と判断され、それまでの記憶を消されている。そのため、兵士となった4年間の記憶しか持っていない。
 抑圧と協調。目的のためであればどんな手段も正当化される社会。「漂白」された思想に満たされた世界が果たして真に健全たるのか? 宝塚的世界観を揺るがすだけでなく、現代社会へ向けられた冷静で知的な視線は本作でも健在となっている。

 

3.構成

 これだけ重たいテーマがエンタメとして成立するのはいつものことながら細部にまでエスプリが冴え渡った構成の上手さが大きい。1幕冒頭で怒涛のように世界観を浴びせ、観客を引き込んだところでまずはポルンカという星の設定を紐解いていく。その中でも最大の謎の一つ、SAPAと呼ばれる巨大クレーターの存在がこの物語のキーとなる。どうやらそこに辿り着いたものはどんな願いでも叶うらしい。
 オバクとそのお目付け役である公務員タルコフを脅すように巻き込んで、SAPAへ向かおうとするのはポルンカを治める総統の一人娘であり、次期総統に指名されている女性、トップ娘役・星風まどか演じるミレナである。
 旅路の途中、違法ホテルにて数々のアウトローな人物たちと出会うのだが、中でも精神科医のノアとアナーキージャーナリストのイエレナはどうやら記憶喪失前の主人公について何か知っているらしい。次第にミレナまでもが地球での記憶を失っていることが判明する。そんな登場人物の謎を残したまま、2幕へ続く。
 2幕も怒涛の展開で観客は最後まで心掻き乱され続ける。歌唱を極力排除した膨大な台詞、SF的世界観のため細部の理解には時間がかかるが、大枠の理解には一回の観劇でも十分だろう。なおかつ同じ演目を複数回観劇する人の多い宝塚では回数を重ねるごとに理解が深まり、より楽しめる構造は非常に重要になる。
 普通、これほどの要素を詰め込めばどこかしら破綻してしまいそうなものだが、物語の手綱は演出家の手から1ミリも離れることはない。相変わらずその計算し尽くされた手腕に惚れ惚れした。

 

4.「布」が表す融合と分断

 初見時、プログラムのウエクミ先生の言葉にもあったよう、この物語は常時接続かつ管理的な現代社会に対する苛烈なまでのド直球批判だと思った。その問題意識は言葉で明示されている部分の他には「布」を使った演出に感じ取ることができる。

①純白のヴェール
 1幕、自分の記憶の謎を追うオバクはアナーキージャーナリストのイエレナに近付く。怪しげな音楽に合わせて、舞台上で真っ白な布に包まれた一対の肉体が蠢く。その姿はまるで二人の人間の境界線が溶け合い、一つの生命体になってしまったかのようだ。そうしてイエレナと”初めて”寝たオバクは彼女が彼の身体を知り”過ぎ”ていると気付く。記憶にはないが、確かに知っている。最も密着した身体的な交わりによって、逆説的にその「違和感」がはっきりとするのだ。
 また、2幕でミレナがポルンカの人類全ての意識"ミンナ"と混ざり合う際も同様の演出が行われる。群衆とミレナを覆い尽くした真っ白な布は先ほどよりもより巨大化した、変態する蛹のような塊となる。それ自体が生きているかのようにばらばらと蠢き、人間が溶け合っていく。皮膚も肉も骨もすべてが混ざり合い、形を変え、一体となる。
 そうしてミレナとミンナの融合が完了するとミレナを取り込んでいた布はするすると持ち上げられ、サーカスのテントのように天井を覆う。そんなミンナの意識の中でオバクとブコビッチは過去の記憶を共有する。他人の心と繋がり、己の憎しみも他者の苦しみもすべてを共有し合う。布が落ちれば過去と意識が分断され、現在へと戻ってくる。
 これらの布の動きは人間の精神的「融合」を効果的に見せ、そして、それによってむしろ個人と個人の「分断」を際立たせる働きがあると考えられる。
 そもそもポルンカの人間は「へその緒」システムにより、全身を見えない膜で覆われている。ある意味、透明な洋服のようで、生身の肉体を保護すると共に自分以外の世界との隔絶を作り出している。他者と絶対的な隔たりを作ることで初めて生命を維持できるのだ。ブコビッチの手によって後につけ足された精神データの一括管理システムが徹底的に否定され続けているところもから個人としての独立性を重視していることがひしひしと伝わってきた。

②キプーのひざ掛け
 布はSAPAの違法ホテルで出会ったテウダという母親とその息子キプーの関係性にも「融合」と「分断」の効果をもたらす。キプーは脚が悪く、車椅子に乗っている。そんな我が子をテウダは優しく気遣い、その脚を治したいと願って危険なSAPAまでやって来たらしい。テウダはただただ息子の幸せを祈る献身的で理想的な母親である。
 そして、そんなキプーの脚にはいつも同じひざ掛けが掛けられている。いつだって肌身離さないあたたかな布だ。だが、実際のところ、キプーの脚はどこも悪くない。守る必要などどこにもない。医学では立てない理由が分からないからテウダは藁にもすがる気持ちでSAPAに来たのだ。ポルンカには祈る神もいないから。
 少年はタルコフの死を前にして初めて自分の足で立つ。泣くな、強くなれ。お母さんを守ってやれ。家族のような関係性を築いたタルコフの亡骸には唯一の弔いとしてキプーのあたたかなひざ掛けがかけられる。キプーにはもう必要ないから、一人で立って歩けるから。誰にも守られる必要はないから。
 物語のラスト、キプーはフライングサパに単身乗り込む選択をする。見送りに来たテウダはわたしもこの星も息子を守りすぎていたのかもしれないと微笑む。癒着していた母子関係が分離し、子の巣立ちに繋がることを一枚の布が静かに、それでいて力強く見せてくれた。


5.分かり合えないことから

 本作は全体主義的な思想について明らかなNOを示している。ただ、それでいて思想を問わず、全ての登場人物に人間臭さが薫るところがたまらない。特に人類全体の融合を目指したブコビッチに対する細やかな描写がその魅力を端的に物語っているだろう。

 ポルンカで禁止されている「違い」の一つに名前がある。地球での呼び名から浮かび上がるのはその人が所属している民族である。民族が分かれば、それに付随する言語、文化、歴史的背景が語り掛けてくる。
 「ブコビッチ」はおそらく南スラブ系。ユーゴスラビア圏を出自に持つ。世界でも有数の歴史的背景の複雑な土地である。それだけでもブコビッチが「違い」を奪おうとした理由が察せられる上、着想を得たという『怪物の眠り』の作者エンキ・ビラルは旧ユーゴスラビアの出身であり、作品自体にも重なりが見つけられるだろう。
 なおかつ、彼の母国はサパの地球における戦争の敗戦国なのだ。優れた科学者だから宇宙船に乗ることができただけで彼はずっと虐げられる立場の難民である。 
 一方でオバクの地球名であるサーシャとその父、ロパートキンの出身はロシアだろう。ロパートキンがユーラシア最高の科学者と呼ばれていたことから先の地球での戦争はロシア側が勝利したと考えられる。
 この立場の違いは埋めようのない思想の差をもたらす。「へその緒」システムを完成させた際、神に感謝すると言ったロバートキンにブコビッチは激昂する。人間は平等ではない。命は選ばれている。勝者が語る理想論は彼らが奪われていないから言えることなのである。奪った者、奪われた者、どこまでいっても分かり合えるはずがない。

 そんなブコビッチの過去については、宝塚でここまで描くのかと息を飲んでしまった。分かり合えるという理想を説くオバクから過去の描写に入り、目をそむけたくなるような戦争の描写が始まる。容赦ない落差、正直、苦しすぎて辛かった。
 彼が全体主義に陥る理由が痛いほど分かるのだ。理不尽に恥辱に満ちた死を与えられた妻や娘の苦しみ、悲しみ、無念。目の前で愛しい存在の命を奪われること、守れなかったこと。生きていること自体が罰のような苦しみから解放されるためには完璧な世界を叶えなくてはならなかった。すみれコードぎりぎりまで容赦なく描かれているからこそ、その苦しみが響く。
 そうして一人で背負ってきた寂しさはミンナになれば解放される。どんなに分かり合えない存在であっても一つになれば分かり合える。わたしたちを分断してきた言葉も立場も説明もいらない。オバクはブコビッチの愛を憎しみのようだと呼んだが、それでもなおわたしはそれを「悪」とは呼べない。引き裂かれそうな胸の痛み。彼を善悪で測れることができない。善だけの人間も悪だけの人間もいない。善も悪も混ざり合って、愛しきれない憎みきれない。その割り切れなさが人間なのだと思う。
 孤独な総統に女神のような微笑みで死をもたらしたのは奇しくもミンナと融合した娘・ミレナであった。憎しみから殺すのではない。永遠の眠りこそが彼をその寂しさから救った。きっと彼の魂は妻と娘を失ったときに一緒に殺されていたのだ。命の心配などする必要のない宇宙船でもSAPAの寂しい地下実験室でも、彼の魂はずっとずっと戦場で残虐に殺され続けていた。この世のどこにも平和などなかった、誰しもに等しく訪れる死のほかには。だから、ミンナになったミレナが終末をもたらした。あれほど世界をひとつにしようとしていたブコビッチはミンナから分断されることで初めて安寧を得た。

 サパを見ていると以前、テレビで放送されていたダンサーの菅原小春と平和学研究者の伊勢崎賢治の対談が脳裏に蘇ってきた。菅原はもちろん世界的に知られたダンサーであり、伊勢崎はNGO国際連合職員として世界各地の紛争地で紛争処理や武装解除などに当たった実務家である。
 そんな異業種の二人が語らうのは戦争についてだ。「どうして戦争ってあり続けると思う?」という問いに菅原はこう答えていた。
「愛があるから。人間が愛を持ち続ける限り、憎しみは生まれていく。だから戦争もなくならない」
 わたしたちが人を愛するとき、もしその人が誰かの手によって傷付けられたら、傷付けた相手を憎んでしまう。どんな理由があろうと憎むのを止められない。ブコビッチのように。愛から憎しみが生まれる。愛がある限り、戦争はなくならない。
 当時のわたしにとって、この答えは衝撃だった。そして、同じ衝撃が今回のサパでもたらされている。宝塚という夢の世界がいつだって力強く肯定する愛や夢や希望、それはいつも憎しみと隣り合わせにあるのかもしれない。
 わたしたちはきっと争い続ける。これまで払ってきたたくさんの犠牲を知りながら、どんなに違いをなくしても完全にわかり合うことはできない。不完全で、醜くて、無様で。わたしにはわたしの、あなたにはあなたの地獄がある。
 なのに、それでも愛してしまう、分かりたいと思ってしまう。不完全な存在として、あなたと共に生きたい。分かり合えないことから始めることはできるのだ。どんな絶望の淵でも希望を見出す人間の人間であるが故のままならなさ。ウエクミ作品の中で今までずっと繰り返し表現されてきたことがここにもあった。

 そうしてブコビッチを亡くしたポルンカには88日ぶりの朝が訪れる。神々しいまでの光と共に集まった群衆が一斉に歌い出す。まるで新しい世界の訪れを祝福するかのように。当初、サパは宝塚としては異例のほとんど歌のない芝居だと噂になっていた。しかし、考えてみれば当然でサパの舞台となるのは音楽が禁止された世界なのである。やすやすと歌えるはずもない。だからこそ、絞りに絞られた場面での歌の力が響いてくる。その響きは神聖と言ってもいいほど、心に響いた。

 

6.希望の船

 ポルンカ最初の女性、識別番号02・ミレナにはありとあらゆる災厄が降りかかった。ミンナを通して人類すべての苦しみすら知った。それでも彼女には希望が残った。ギリシャ神話における人類最初の女性パンドラと同じく。
 新天地を目指す「フライング・サパ」に向かう彼女には他者と分かり合えない根源的な寂しさと共に生きる覚悟ができていた。愛する人と再び額を合わせたとき、寂しさを抱えながらそれでも一緒に生きていく未来を力強く見据えている。
 彼女の父、ブコビッチには過去しかなかった。同じくイエレナにも。過去に囚われ続け、過去のために現在を生きていた。未来すら過去のためにあった。
 けれど、彼女にはノアがいた。どんなに分かり合えなくてもありのままを愛される。彼女の現在を受け止め続ける存在が。そしてまた新たな希望に姿を変える。未来がその身体に宿った。

 彼女たちに向けられた眼差しにわたしたちはどう向き合えばよいのだろう。奇しくも新型コロナウィルスが世界的に感染を拡大し、宝塚すらもその現実から逃げられない今このときだからこそ作品の持つ重層性はさらに増した。
 さて、オバク達を乗せて飛び立つ「フライング・サパ」は「すばらしい新世界」へ辿り着けるのだろうか?
 作品の良し悪しと好みは必ずしも一致しない。本作が現代社会に生きる我々の心に巻き起こした問いは人によっては強い拒否感に繋がることもあるだろう。では、その胸のざわめきは一体どこからやってくるのか?
 心の柔らかい部分にひたひたと鋭い刃を突きつけられているような心地を抱えながら、今日、宝塚でこの作品が上演された意味に思いを馳せた。

 これほどまでに心動かされる劇場をわたしはやはり愛している。

演劇を信じる

 

「ぼくよりもっと素晴らしいローラがこれから来日します。そちらも是非見てください」

 

面食らってしまった。
2016年、ブロードウェイミュージカル『Kinky Boots』大阪公演、熱狂のカーテンコール。興奮渦巻く客席に向かって発せられたのは思いもよらない言葉だった。しかも、それは舞台の中心、0番に立った演者から投げかけられたのだ。先ほどまであんなに素晴らしい歌やダンス、芝居を見せてくれていた彼は自分の実力がまだまだ足りないとでもいうような謙虚さを滲ませて笑っていた。

 

三浦春馬


名前を聞けば、たいていの人は彼の顔が浮かぶだろう。14歳の母、恋空、ごくせん、ブラッディ・マンデイ……挙げ出せばキリがないほど、世に知られたたくさんの出演作。

 

だけど、わたしが『Kinky Boots』で観たのは誰もが知る俳優「三浦春馬」ではなかった。舞台に立っていたのはパワフルでチャーミング、繊細な内面を持ちつつ力強く前を向くドラァグクイーンの「ローラ」という一人の人間だった。顔も名前も売れた有名な俳優が個人の色を消し去って、声で、表情で、仕草で、歌で、ダンスで、生き生きと自分と全く異なる人間を表現する。役として生きるってこういうことなんだと思わされた。
聞けば、彼はこの作品に惚れ込んで、役作りのためわざわざNY留学までしたらしい。売れっ子俳優がその時間を取る難しさは想像に容易い。演じるために一切の妥協なく努力し、心から役を愛して、冒頭の言葉を発するくらいリスペクトを持って作品と向き合っていた。

 

あぁ、この人、本当に好きなんだ。その思いの強さに頭を殴られた衝撃があった。

 

それ以降、彼のことをテレビで目にすればうれしかったし、SNSで触れる人柄も心地よかった。なんといっても2019年、再び舞台でローラに会えたときのうれしさといったら。思い出すだけで胸が熱くなる。しかも、すごいパワーアップしててね。春馬くんはずっとずっと作品を、役を愛してくれてるんだって、舞台に向き合ってくれてるんだって。涙が溢れて、また世界が希望に満ちた。

 

わたしが知っているのはたったそれだけ。熱心なファンでも何でもない。出演情報を逐一チェックするとか、現場があれば必ず通うとか、寝ても覚めても彼のことを考えているとか、そういうのじゃ全然ない。

 

でも、その輝きはいつでも見失うことのない星のようだった。
わたしは舞台に立つ人間に希望を見出してしまう。割り切れないことも多いこの世界で出会えた素晴らしい作品を生きるための光だと思ってしまう。勝手に好きになって、勝手に励まされて、勝手に救われて。だから、どうか作品に関わるみんなが幸せでいてほしい。殊に、特別好きな人にはそう祈ってしまう。何をどう好きになるか、正しさなんてないのかもしれない。それでもこうなってしまった今、ずっと後ろめたくて仕方ない。生きてる人間を神様にすること。その罪深さが身に染みている。

 

彼はもう、好きという言葉も届かない場所にいってしまった。

 

今はまだ他人の気持ちに寄り添えない。春馬くんがいない現実味のない事実だけがそこにある。身体の半分が千切れてなくなった気がする。立ってるのか座ってるのか分からない。浮いてるみたいな、どこにも根を張れない、背骨のない生き物になった心地のまま、4日が過ぎた。心がついていかない。意味が分からなくてまともに泣けもしない。なのに、書いてしまう。言葉にするのも苦しくて仕方ないのに書かずにはいられない。こんなエゴイスティックなことばかり考えているわたしに、特別なファンでもないわたしに、悲しむ権利があるのかすら分からない。心も身体も全部がちぐはぐになっている。

 

それでも当然ながら、わたしはわたしの日常を続けている。そして、彼と出会ったのと同じようにこれからも劇場に通う。魂なしには生きられないから。ただそれだけが分かっている。

月組公演『出島小宇宙戦争』を観ました②

 

俺のデジマは終わってねぇ!!!!!!!

 ということで色々ありましたが、『出島小宇宙戦争』感想第二弾です。今日は主演としてのちなつさんへの感想とカゲヤスというキャラクターに感じたことを徒然なるままに語っています。ポエポエの実食べたから終盤ほぼポエムだよ。3秒に1回大好きって感じ。
 ちなみに感想文はあと2回くらいは続くはずなので良ければお付き合いください……。次回は他の登場人物についての感想をお届けする予定です。

 

①とにかく顔が良い
 お顔見て(はわわ……顔が良い……!)ってオタク仕草してるうちに終わっちゃった。いや、だって、かっこよすぎるじゃないですか?お顔が天才!宇宙一初恋!爆池度が世界記録を毎秒更新!!!横顔のラインとかパーツパーツのうつくしさにうっとりした。ビジュアルすごつよ。
 個人的にツボなのはアシメ前髪の右目にかかるくらい長い毛先がつけまの上に乗ってるとこ。瞬きする度に前髪ぴょこぴょこ動くの。めちゃくちゃかわいかった。免疫力最強になる。あそこだけアップの動画くれんか?一生再生したい。国家で保護する法律作って。
 お衣装もこだわりのライティングに映える生地でよかったな~綺麗だった~!殿堂でじっくり見せてくれ~~~~~!!!!

 

②0番としての安定感
 すっっっっごい主人公……!(小並感)ポー出の永遠の新規なものでちなつさんの主演公演を実際に観劇するのは初めてだったのですが、こんなにも真ん中として自然なんですね。押し出しの強さはもちろん、奇抜なことをしなくてもしっかりと存在感がある。そこにいるだけで0番としての重みが感じられた。それがまず感動でした。
 デジマの登場人物ってみんなキャラ濃い目じゃないですか?その中でカゲヤスは比較的普通というか(あの中で普通でいられる異常性というのはあるかもしれません)インパクトとして押し負ける可能性もある役だと思うんです。
 けれど、逆にそんな個性豊かなキャラクターたちを確かに纏め上げる力があった。カゲヤスがいるから破綻しない。安定感。彼を中心に物語が進んで、そこに違和感がない。しゅ、主演……ってなっちゃった。
 あと、出演者全員がお互いを引き立て合うというか、カンパニー全体が切磋琢磨しつつのびのびやってる印象を受けた。みんなたのしそうでよかったな~。そういうハッピーな空気に溢れてんのめっちゃうれしい。舞台に贔屓がいるとそこだけ解像度が一気に上がっちゃって、他が目に入らない圧倒的バグを抱えた人間ですらそう思うのすごくない?舞台って楽しい!ボールは友達

 

③艶やかな歌声とデュエットの親和性
 カサノヴァを経て磨きがかかった歌唱力がこれでもかというほど活きていてずっと気持ち良かった。劇場全体に響き渡る艶やかな歌声の心地よさといったら!言葉にならない!あとやっぱり声が好き……。
 うみちゃんとの声質の相性もこんなに良かったんですね。個人的にIAFAはナンバーの音域もあってお互い上手いな~くらいの印象だったけれど、今回はその親和性の高さをかなり強く感じた。はっとする良さだったな。良い物を聴かせてもらった。

 

④恋する視線
 ほんっっっっとちなつさんの視線のお芝居がだいすき。どうしてこんな表情ができるんだろう。タキに出会った瞬間、眼差しだけで恋に落ちたのが分かるんですよ。悶えた。たまらん。好きも切ないも寂しいも言葉にしないのに、その目が全てを物語ってしまう。すべての所作に男役としてのかっこよさが詰まっている。視線で表情で背中で指先でここまで感情を語れるのだと改めて感動しました。立ってるだけでめちゃくちゃかっこいいって何なんだ……意味が分からん……大好き……。よっ!最高のクールビューティー!(るうさんのご紹介シリーズ大好き)

 

⑤イノセントとワイルドのギャップ
 さて、ここからはカゲヤスというお役に触れます。カゲヤスさんって言葉遣いはワイルドなんだけど、本質的にはピュアなんですよね。ピュアだからこそ素直に師匠に憧れて、その無骨さを引き継ごうとする。身体は成熟した大人なのに精神は穢れを知らない感じ。そのアンバランスさはだいもんのエリックを思わせるけれど、あの痛々しいまでの未成熟さはない。達観して行き着く先のような純真の目立つ不思議な人間性にすごく惹かれました。
 あのギャップはどこから来るんだろう?と思ったときに現れるのが蘭くんのフレッシュなカゲヤスくん。幼気な少年が幽閉されて、その延長線上にちなつさんのカゲヤスさんが存在する。その流れがとても自然に受け入れられた。過去との繋がりが説得力を持って見える。周りのキャラクターとの調和に感じる優れたバランス感覚。すごい。

 

⑥包容力に隠れた孤独感
 そもそも、彼の人生は外の世界にいた時間よりも閉じ込められていた時間の方がずっと長くて、それこそ孤独や憎しみといった感情が大きく育ってもおかしくなかった環境だったと思う。タダタカ先生のいうように父は立派な天文学者だったのかもしれないけれど、その思想を幼い子に強いるのは普通に虐待ですし、生まれは避けようがなく、星が好きだったのかすら分からない子どもに与える親の教育は呪い。
 それでも誰も恨んでいない。唯一の理解者だった師匠を自らの手で殺めてしまった事実すら一人で感情を飲み込んでいる。長い幽閉生活の中でやっと出会った救いのような存在だっただろうに。あまりに自然に存在しているから思いを馳せないでいられるけれど、ふと冷静になると胸が痛んだ。
 宇宙人であるカグヤが美徳と捉えていたカゲヤスの純真さ。一介の人間であるわたしにはエゴイスティックから程遠い姿がある意味とても不器用な人に見えた。どこまでいっても孤独。なのにどこまでもやさしいのが切なくなる。寂しいといえないのが一番寂しい。
 ただ、孤独の澄んだ光はどうしようもなく人を惹き付ける。何度も触れますが「夢」の場面で師匠が亡くなった後、青い光に照らされるカゲヤスさんがとてもとても綺麗だった。重い漆黒をたたえる宇宙の中であんな風に青く光り輝く唯一の惑星を見つけたら恋をしてしまう。地球から見上げた月がうつくしいように月から見た地球もきっととてもとてもうつくしい。そう感じてしまうロマンチックな場面だった。
 孤独な男って本当に魅力的ですよね……。月の裏側が見えないことにロマンを感じる気持ちは心の奥底まで見えないカゲヤスさんに惹かれる気持ちに似ている気もした。一生分からないままでいてくれ~~~~~そこが好きだ~~~~~~~~うおおお~~~~~~~(?)

 

⑦鏡合わせの罪の行方(或いは断罪と赦し)
 そうそう。一幕終わり、リンゾウに撃たれた後「ふっ、……」と微笑むの本当に好きでした。あれを見て初めて、カゲヤスはずっとリンゾウにこそ裁かれたかったのかもしれないと思った。赦されたいのではなく裁かれたいの。師匠への想いを唯一分かち合える片割れに(精神的な)父殺しの罰を与えられたかった。あの笑みに潜むのは罰を受けた安堵なのか。純真無垢な人間にとって罰のない罪は何よりも苦しい。誰も憎まない人がただ一人許せないのが自分だなんて……オタクそういうの大好きです。リンゾウが鏡合わせの罪を背負ったことがカゲヤスを孤独から解き放つのエモエモのエモだったな。くぅっ、タカヤありがとう。

 

 長々と触れてきましたが、純粋ってある意味で狂気なんですよね。知りたいという知的好奇心だけで蛇の道を進んでいける。人間って普通に弱くて欲望だってあって、だからこそ傷付いても何とか生きていけたりするものじゃないですか。でも、カゲヤスさんはそういうずるさのない真っ直ぐさが人間としてのしなやかな強さに見えた。この人を信じたいという気持ちにさせられた。滲み出してくる性質に嘘がない。舞台上の人物という絶対的虚構なのにそんな風に思わされる。それが一番好きなところでした。

 

 


 『出島小宇宙戦争』という作品を、カゲヤスさんというお役を見られて本当に良かった。ちなつさんの舞台姿ってずっと新鮮なの。今までこんなちなつさんは見たことがなかったけれど、こういうちなつさんが見たかった。瑞々しい歓びに満ち満ちた時間。また観たい、舞台って面白い。毎回そう思わせてくれる。
 ちなつさんは舞台のどこにいてもわたしの0番ですが、本当に舞台の真ん中にいるのってびっくりするくらいどこまでもしあわせでした。発表されてから最後の日まで本当にずっとずっとしあわせだった。こんなにしあわせなことあるんだな~ありがとう~~~~。
 まだまだ不安な日々が続きそうですが、感謝の気持ちを胸に自分にできることをしっかりこなしながら過ごしたいと思います。とりあえず感想文が全然終わらない焦りがヤバい。では、また!